2006年3月開催予定のワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)。2006年2月9日に、2012年のロンドン五輪での野球・ソフトボールの復帰が否決され、実施されない公算が強まった。そういう意味でも、プロの参加した国際大会の開催は不可欠なものになっている。そこに登場したのがWBC。サッカーのワールドカップに遅れること70年以上、ようやく野球も国際化に向けて第一歩を踏み出したと言うことができる。
ところが、イニシアティブをとるべきアメリカと日本で、出場辞退する選手が続出している。「言いだしっぺ」のアメリカについても言いたいことは山ほどあるが、長くなるのでここでは日本のことに話を絞ろう。阿部(巨人)の出場辞退は昨シーズンの終盤に故障した肩が原因だから、これを責めることはできない。ここで問題になるのは、言うまでもなく松井秀喜(ヤンキース)と井口資仁(ホワイトソックス)の2名である。ただし、選出されたメンバーの球団的な偏りを見れば、水面下で出場辞退した選手が他にもたくさんいたことは明白なのだが、確証がないのでここでは省かせていただく。
松井は最初から態度を保留しており、井口は当初は出場を承諾したが、後で態度を一変させたものである。両者ともレギュラーシーズンを優先したのだ。たしかにメジャーは日本よりも試合数が多いし、松井も井口もレギュラーとしての保証がない。「WBCに出場していたので調整が遅れました」では済まされない。結果が出なければ、ファンもマスコミもこぞって批判の集中砲火を浴びせるだろう。WBCに出場していたことに対して同情の余地などない。まだアメリカではWBCよりもワールドチャンピオンのほうが価値が高いのだ。
だが、それは彼らの個人的な問題。野球の国際的な発展と、彼らを育ててくれた日本野球界に対する恩返しのことを考えていない。メジャーに行った彼らがこれらのことに貢献する唯一のチャンスがWBCなのだが、その機会を自ら否定してしまった。松井はオフシーズンに地元に帰って子供たちと交流をしているが、それだけで野球が劇的に発展するとは思えない。やはりファンに対する最大の恩返しは、日本のために日本代表として活躍することだろう。
…と、本来ならそう2人を批判したいのだが、今回のWBCはどう考えても日程的に無理がある。本来なら調整の真っ最中である3月3日に開幕し、決勝が3月20日に行われ、パリーグは3月25日、セリーグは3月31日、MLBも4月3日などに開幕する。あまりにも時間が無さすぎる。つまり、いつもの年よりも1ヶ月早く体を作り、シーズンが終わるのは例年と同じ。これでは体力的にも不安であろう。例えて言うなら週休2日だったサラリーマンが、土曜日を全て出勤日にされてしまうようなものである。
そもそもWBCが3月に開幕するということは馬鹿げているとしか言いようがないのだが、レギュラーシーズンの試合数を減らさないのもおかしい。WBCを全面的にバックアップするという姿勢が日本にもアメリカにも見られないのだ。ベストな開催時期は6〜7月頃だろう。そしてWBCが開催される年はオールスターを中止し(代わりにフレッシュオールスターを増やしてもよい)、レギュラーシーズンの試合そのものも15試合前後減らすべきだと思う。そうでなければ、今後も野球ファンは炭酸の抜けたコーラを飲まされる羽目になる。
もっとも個人的には、松井や井口にはこれらの不利な条件を忍んででも、イチローのようにWBCには強行出場してほしかった。日本の野球ファン、世界の野球ファン、これからメジャーに行こうとする日本人選手のために。日本人サッカー選手が海外に行っても批判が起きないのは、ヨーロッパサッカーがJリーグよりも明らかにレベルが高いからだけではなく、いざ国際試合になった時に日の丸のユニフォームを着て戦ってくれるからなのだ。
ワールドカップよりもJリーグを優先するサッカー選手はおるまい。だが、そうなるまでにはワールドカップにもさまざまな苦労があった。第1回の1930年ウルグアイ大会は船での移動が主だったため、欧州各国が参加しなかったのは有名な話だし、第二次世界大戦による中断もあった。今のように権威ある大会になるまでには時間がかかったのだが、いずれWBCも世界の注目を集める大会になってもらいたい。その第一歩は先が思いやられるものだが、まずは開催することに意義がある。第2回のWBCに良い形でつながるような大会になることを望む。
