名選手必ずしも名監督ならず2005/5/19up

 「名選手必ずしも名監督ならず」――――昔からよく聞く言葉である。誰しも分かっているけれども、ついつい往年のスターを監督にしてしまうのが日本プロ野球界だ。もしスター選手を監督にして失敗しても「仕方ないな」と思われるような風潮があるし、逆に現役時代さしたる実績もない人を監督にして失敗しようものなら、抗議の電話が鳴り止まないだろう。

 アメリカでは、現役時代にメジャーに上がったことのない人がメジャーの監督を務め、成功する人も多い。むしろ、現役時代に実績を残した大スターは、その偉業に傷をつけないよう、監督業に就かない人が多いようだ。ところが日本は違う。大スターは現役時代から「あいつは将来の監督候補だ」と騒がれ、監督になるまでのレールが丁寧に敷かれる。大スターを監督にすれば、観客収入も伸びる。多少成績不振でも、フロントは我慢しようと思う。これが日本の現状だ。それでは現在の12球団の監督の現役時代の成績と監督としての成績を見ていただこう。ピンク色の部分が現役時代、黄緑色の部分が監督としての成績である。

投手 球 団 試 合 防御率 勝 利 敗 戦 セーブ 試 合 勝 利 敗 戦 引 分 勝 率 優 勝 日本一
堀内 恒夫 巨人 560 3.27 203 139 138 71 64 .526
牛島 和彦 横浜 395 3.26 53 64 126 監督出場なし
野手 球 団 試 合 打 率 安 打 本塁打 打 点 試 合 勝 利 敗 戦 引 分 勝 率 優 勝 日本一
伊東 勤 西武 2379 .247 1738 156 811 133 74 58 .561
王 貞治 ソフトバンク 2831 .301 2786 868 2170 2003 1044 897 62 .538
トレイ・ヒルマン 日本ハム メジャー出場なし 273 128 139 .479
ボビー・バレンタイン ロッテ 639 .261 441 12 157 263 134 123 .521
仰木 彬 オリックス 1328 .229 800 70 326 1720 926 745 49 .554
田尾 安志 楽天 1683 .288 1560 149 574 監督出場なし
落合 博満 中日 2236 .311 2371 510 1564 138 79 56 .585
若松 勉 ヤクルト 2062 .319 2173 220 884 829 425 388 16 .523
岡田 彰布 阪神 1639 .277 1520 247 836 138 66 70 .485
山本 浩二 広島 2284 .290 2339 536 1475 1213 591 597 25 .496
                    ※優勝は、リーグ優勝と日本一の合計をさす。
                    ※成績は2004年シーズン終了時点。
                    ※外国人監督の現役成績はメジャーのもの、監督成績は日本のもの。

 ヒルマン監督はメジャーでの実績はないが、1A〜3Aの監督として実績を残し、1999年には3Aコロンバスを優勝に導き、その手腕が買われて日本ハムが招聘したものである。バレンタイン監督はヒルマン監督に比べれば現役時代の実績があるが、それでもスター選手とまでは呼べない。やはり彼も選手指導に定評があり、メジャーでは彼を慕ってFA移籍する選手が何人もいたという。

 ところが、上の表を見ても分かるが、日本の監督の大半は現役時代に輝かしい実績を残している。さらに、現役時代に大スターだったことを理由に、コーチ経験もないままいきなり監督に就任させる場合もある。昨年の西武伊東監督・中日落合監督はそういう経歴ながらしっかり結果を残したが、伊東監督は現役時代晩年はコーチ兼任だったし、落合監督はキャンプで臨時コーチになるなど、選手指導には定評があった。さらに、西武と中日はもともと戦力が整っていた。今年の田尾監督を始め、戦力不足のチームをコーチ未経験者が指揮すると惨憺たる有様になる。チームが低迷した時の対処法を知らないからだ。

 これではいけない。現役時代と監督としてでは、結果を残す方法が全く異なることを知るべきである。Jリーグではコーチになるにもライセンスが必要で、監督になるには「S級コーチライセンス」がいるのだが、この保持者は全国に200人もいない(2005年5月現在)のだとか。これの取得には所定のカリキュラムを修了し、筆記・実践などの試験に合格しなくてはならない。狭き門だが、この過程を経て真の指導者にふさわしい人材が育成される。現役時代の実績とは無関係で、高校サッカーの監督を歴任した人がこのライセンスを取得する場合もある。

 現役時代に偉大な功績を残したのに、監督としてはまるで結果を残せず寂しくユニフォームを脱いだ人は何人もいる。そういうことを避けるためにも、プロ野球にも監督・コーチになるにはライセンスが必要なようにしたらどうだろうか? 日本プロ野球にも「コーチ学」という新しい学問が生まれるべきだ。